LOGIN第 百一話 舞踏会
「それでは今日の授業はここまで……」
先生の言葉で授業が終わる。 梅乃が慌てて帰り支度をすると
「梅乃ちゃん、今度の土曜なんだけど……」 東郷が話しかけてくる。
「ぱーてぃ?」 梅乃がポカンとすると
「今度の土曜にエドガー先生を招いて宴をするんだ。 よかったら梅乃ちゃんも来てくれないか?」
「あぁ、宴席の事ですね。 でも、実家の事もあるし……」
采が足を痛めてからは文衛門が昼見世の時間の遣り手をして。夕方から梅乃と交代するようになっていた。 梅乃は笑顔で
<第 百二話 後半戦 玉菊灯籠が終わり、夏の暑さも落ち着いた頃 「一花、お婆の様子はどう?」 「はい。ゆっくりですが、歩いています」 采の足の怪我も落ち着いてきて、昼見世の時間には遣り手の席に座れるまで回復していた。 「なんだい? そんな大騒ぎすることじゃないって、言っただろ」 采の言葉も荒く、以前のような元気が戻ってきた。 「はい、お婆……」 梅乃が肩を貸し、遣り手の席まで誘導すると 「すまないね」 梅乃には優しい言葉を掛ける。 「少し丸くなったのかしら……」 小夜は隠れながら様子を見ている。 「で でも、優しい時の後って……」 古峰も同じように隠れながら見ていた。 「じゃ、いってきます」 梅乃は元気に登校していく。 “タッ タッ タッ―” 三枝が後を追って走り、「いってらっしゃ~い」 大きく手を振っていた。 学校に着くと、「東郷様、先日はありがとうございました」 「おはよう、梅乃ちゃん。 いいえ、可愛い洋装が見れて良かったよ。 小夜ちゃんも素敵だった……」 梅乃は東郷の優しさに笑顔になっていく。 少し前は「羅紗緬」と呼ばれ落ち込んだ時期もあったが、東郷が笑顔にしてくれたことで梅乃は元気になっていった。 梅乃が学校の廊下で男子生徒の噂話を聞いてしまう。 「なんでも九州で士族たちが反乱を起こしているらしいぞ……」 明治に入り、廃藩置県により全国で三十六県になっていた。 その九州で士族の乱が起きてい
第 百一話 舞踏会「それでは今日の授業はここまで……」先生の言葉で授業が終わる。 梅乃が慌てて帰り支度をすると「梅乃ちゃん、今度の土曜なんだけど……」 東郷が話しかけてくる。 「ぱーてぃ?」 梅乃がポカンとすると「今度の土曜にエドガー先生を招いて宴をするんだ。 よかったら梅乃ちゃんも来てくれないか?」「あぁ、宴席の事ですね。 でも、実家の事もあるし……」采が足を痛めてからは文衛門が昼見世の時間の遣り手をして。夕方から梅乃と交代するようになっていた。 梅乃は笑顔で「残念ですが、私は実家の会計をしなくてはなりません…… 皆様で楽しい宴席をお過ごしください」 そう言って吉原に帰っていった。「へぇ~ 学校にも宴席があるんだね……」 梅乃から聞いた采が驚いている。「なんでも、ぱーてぃ……とか言うみたい」 梅乃は采の足に薬を付け、包帯を巻いていく。 薬は梅乃が調べて学校で調薬をしていたものである。「しかし、お前が薬なんか作れるようになるなんてね…… もう、岡田より凄腕になったんじゃないのかい?」采がケラケラと笑いながら言うと、岡田が渋い表情になっていく。「ところで梅乃、身長はどれくらいだ?」 岡田が訊くと「ここ
第百話 潜む悪意 梅乃が前期の試験を終えると三原屋の手伝いに追われることがある。 「梅乃~ ちょっといいかい?」 采は足を怪我してから部屋にいる事が多くなっていた。 「はい、どうしました?」 梅乃は采の前で正座をしている。 「しばらくは千に遣り手を任せてみようと思うのだが……」 「千姐さんですか? それはちょっと……」 梅乃が頭を掻きながら浮かない表情をすると、 「真面目でいいと思うんだが……」 采は梅乃の表情を確かめていた。 「そういう部分では良いと思うのですが、千姐さんは顔の認識が出来ないです。 馴染みの客も覚えられないとなると……」 梅乃の言葉で采も黙ってしまう。 客によっては勘定が微妙に違う場合もあるからだ。「誰ならいい?」 この言葉に梅乃も悩んでしまう。 迂闊に遣り手を指名すると、妓女として失格の烙印を押してしまうことになるからだ。 「せめて、昼間だけでも出来るなら…… 夕方には私も帰ってきますので、昼見世だけでも」 二人の密会は一時間にも及んだ。 そして、テスト的に頼んだのが…… 「なんだい? 私に用事って……」 やってきたのは玉芳である。 「すまないね…&
第九十九話 危うき情勢 「おはようございます……」 朝早くに目覚めたのが二葉である。 二葉は大人しめではあるが、しっかりした子である。 一番年上である一花は真面目で働き者。 菖蒲に似たタイプだ。 そして、なかなか起きないでスヤスヤと眠っているのが三枝。 好奇心旺盛で、梅乃に懐いている。 後朝の別れの時間になると、廊下が騒がしくなり禿たちが目を覚ます。 “スッ―” 襖を開け、客が通ると全員が頭を下げて見送る。 「ありがとうございました……」 他の客もいるため、静かに声を出すと 「なんだ、ここは嬢ちゃんたちの部屋だったか。 起こして済まないね」 客が笑顔で言ったりもする。 ここは大見世であり、客層が良い。 禿たちにも優しく接してくれる者も多いのだ。 「あれ? 梅乃は?」 小夜が訊くと、全員が首を振る。 その頃、梅乃は岡田の部屋で眠っていた。 遅くまで勉強をしていて、そのまま眠ってしまったらしい。 「うわっ――?」 岡田が寝起きに大声を出す。 「んっん……」 梅乃がスヤスヤと寝息を立てていると、 「お前、なんでここで眠っているんだ?」 岡田は焦っていた。 「先生、おはようございます」 目が半分しか開いていない梅乃が起き出す。 それから数分の無言の時間が流れ、ようやく目が覚めた梅乃が 「それで、先生は何を怒っているの
第九十八話 試験 夏になり梅乃の前期の試験が近づいてくる 。 「どう? 梅乃、進んでる?」 小夜が心配そうに顔を出すと 「それなりに…… 見世の方はどう? 新造も大変でしょ?」 「ううん…… 引っ込み新造だから、暇なくらいだよ~ 古峰が頑張っているしね」 小夜は笑いながら話している。 夏になってくると自然と客は増えてくる。 気温が高いと開放的になり、散財する客も増えてくるものだ。 また、梅乃の試験と合わせたように玉菊灯籠も近くなる。 吉原を代表するイベントであり、見世や妓女たちの今後を左右する試練でもあるのだ。 梅乃も勉強に力を入れていく。 隣では岡田が付いて教えるようになっていった。 「梅乃、薬草の効果を知りなさい。 薬を知れば病気が分かる」 「わかりました」 薬学は後期の試験、前期の為の勉強をしたいのだが病気を知るには薬学も必要になってくる。 梅乃は知識として頭に叩き込んでいく。 朝、学校に向かうと 「おはようございます……」 梅乃が挨拶をするも、生徒たちは梅乃を畏敬の目で見るようになっていた。 (ラシャメンとでも言いたいんだろうな…… それでもいい。 まずは試験だ) 梅乃は頭を切り替え、勉強に集中していく。 解剖学になると梅乃は楽しそうにしている。 教科書では文字の知識ばかりなので、身体の秘密を知るのが楽しかった。
第九十七話 ラシャメン「いってきます……」 梅乃が学校へ向かう時「いってらっしゃ~い」 一番年下の三枝が大きく手を振って見送る。(かわいいな~) 梅乃は三枝の頭を撫で、元気に登校していく。学校へ着くと、教室が騒がしい。 その中で東郷だけがソワソワしていた。なぜなら学校で梅乃が吉原から来ているという話しが駆け巡っていたからである。実際、梅乃は遊女ではない。 それを東郷は知っている為に噂を否定したいのだが、逆に『遊女にハマった男』と言われるのを恐れてしまったのだ。学校に通っている者は医師の子供や士族など、金持ちが多い。 そうした者は吉原の、遊郭の娘である梅乃を卑下して見るようになっていたのである。(梅乃ちゃんは、そんな娘ではない……)一緒に麻疹と戦った者として否定したいのだが、先日に言われた事を気にしていたようだ。『これは真《まこと》の事ですから…… それに、実家が遊郭だからって恥じることもございません。 噂や他人の目が気になるようでしたら、私と一緒に居ない方がいいと思います』 梅乃が言った言葉が東郷の脳裏をよぎっていた。(でも……)東郷がチラッと梅乃を見ると、梅乃は黙って教科書を読んでいた。そして昼になり、梅乃は一人で弁当を口にする。東郷も梅乃の様子を見ながら
第十三話 忍び寄る猛威三原屋が勝来をトップに据えて三か月。段々と勝来も、自分の立ち位置に慣れてきた頃である。「えっ? 私が?」 菖蒲は驚いていた。菖蒲は中級妓女として二階の部屋を使わせてもらうようになった。つまり出世である。夜の営みなどがある場合は、下女であれば金額も安いため 大座敷にパーテーションを立てての行為であり、横の営みなどが丸聞こえである。しかし、恥ずかしいなどとは言っていられない。 とにかく稼がないといけない立場である。今回、菖蒲が中級妓女になり、二階の部屋が徐々に埋まってきた。これは酒宴の間を含む、部屋数が限られるからだ。ここで、二階を使うのが勝来、信
第十二話 勝来玉菊灯篭が始まり、二日目。「おはようございます」 今日は梅乃より小夜が早起きをしていた。「なんだ、今日は小夜の方が早いんだな」 片山は、掃除をしながら小夜と話していた。「えへへ~ 潤さんこそ、いつも早いですよね♪」 小夜は片山からホウキを受け取り、外を掃いていた。そして誰もが待っていた時間、朝食である。「モグモグ」 小さな音で細かく噛んで食べる小夜に対し、 「ガッ ガッ」と口に流し込んで食べているのが梅乃である。性格も反対である。 オドオドしている小夜に対し、正面から当たっていく梅乃。 そんな二人だが仲がいい。これは “人の法則 ” と、言うのであろうか。
第十一話 玉菊《たまぎく》灯篭《とうろう》七月、蒸し暑い吉原では活気が出てきていた。酒宴も多く、大見世から河岸見世まで客が溢れている。「おはようございます。 潤《じゅん》さん」 梅乃は男性職員に挨拶をする。「おはよう。 梅乃は、いつも早起きなんだな~」 そう言って、梅乃の頭を撫でる。この男性職員は 片山《かたやま》 潤一郎《じゅんいちろう》と言う。 いつも笑顔で、爽《さわ》やかな若い衆である。「今日も、ここを頼めるかい?」 片山は、梅乃にホウキを渡した。梅乃がホウキで掃いていると、少し後に小夜がやってくる。「梅乃、おはよ♪」 小夜はニコニコしていた。「どうしたの? なん
第十話 月下の涙 昼見世の時間、菖蒲は張りから外を眺めていた。 そして、誰かが通れば笑顔を振りまくが苦戦をしている。 「はぁ……」 菖蒲はため息をついていた。 「菖蒲姐さん……」 張り部屋の外から梅乃が声を掛ける。 「なんだい? 今は昼見世の時間。 何の用だい?」 「はい。 コレを持ってきました」 梅乃は、張り部屋の戸を少し開けて紙を中に差し出す。 「んっ? 何これ……ぷっ」 菖蒲が紙を見て吹き出した。 その紙は、梅乃が書いた菖蒲の似顔絵であった。 「なんだい? もう少し、上手に描きなさいな……」 菖蒲は笑っていた。 「へへへ……姐さんの笑顔が見たくて描きました」 梅